伊吹大根

 滋賀県坂田郡伊吹町の伝統野菜

 その名の通り、伊吹山の麓、滋賀県坂田郡伊吹町大久保辺りで「峠の大根」として古くから栽培されてきた大根です。来歴は不明なのですが、古くから存在が知られ、この地の名産品であったようです。
 大根といっても、通常の大根のように長くなりません。かといって、聖護院大根のように、丸型になるのでもありません。長さ20cmほどの少し下膨れのずん胴型です。その大きさ・形がネズミに似ていることから、「鼠大根」とも呼ばれました。
また、急に尻尾の部分が細くなる所が「マムシ」に似ているということで、蝮大根(まむしだいこん)と呼ばれる事もあったそうです。

 葉の形は通常の大根と全く同じですが、葉柄の部分が少し赤くなります。これも特徴の一つです。根部の色は白色ですが、青首大根と同じで、地上に出ている部分は緑色になります。

 この伊吹大根の里、伊吹町は、古くからのソバの大産地でした。備荒食糧として伝わったソバを、最初に栽培したのが近江の国伊吹山下とされ、ここから各地にソバ栽培が広まったのだそうです。
 そして、ソバに産地に付き物なのが、良質の辛い大根。大根おろしを薬味にして、ソバを食べるのですが、これは辛くなくてはいけません。この地のそれは、伊吹大根でした。しかし、伊吹大根は、
おろし専用の単なる辛味大根ではありません。 肉質が緻密で澱粉含有が多い為、煮崩れしませんので、おでん等の煮物にも向くのです。また、古くから漬物用としても珍重されてきました。それから、貯蔵性もあります。

 このような素晴らしい大根なのですが、現在では殆ど栽培されていません。伊吹の里で、ほそぼそと伝えられてきた、幻の大根です。
私は岐阜県に住んでいますが、私の住むところは伊吹山に近い地域です。(伊吹山は、岐阜と滋賀の境です。)
 今の時期の、雪で白くなった伊吹山は、大変綺麗です。また、「伊吹おろし」と呼ばれる冷たい強風が吹く地域であり、伊吹山には関わりの深い地域です。そういったこともあり、伊吹大根に非常に興味をもっていました。
 そして、昨年夏、ついに種を手に入れ、現在栽培中です。これから毎年、採種して大事に伝えてゆきたいと考えています。

   (野菜果物大百科第91号より)

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